『日本歴史伝説傑作選』(学研ムック)

kessaku.jpg学研ムックといえば昨年9月16日の『ブログランキング』のことを思い出すのだが、平成14年発行の『日本歴史伝説傑作選』。「語り継がれてきた昔のこころ」という副題で、34話のエピソードが紹介されている。
「歴史ってこんなに面白かったっけ?」という表現に、なんとなく「ブログランキング」での当ブログへの評価文に似たニュアンスを感じた。それはつまり、最近多い怨霊やら策略政治の視点からの歴史読み物などに、今の若い世代の人が少し飽きてきて、ちょっと古い本を調べたら、もっと興味深い話がたくさんあり、そういった物語に新鮮な驚きを感じたということではないだろうか。

全34話のうち、奈良・平安時代の話では、役行者、中将姫、弘法大師、小野小町、菅原道真、安珍・清姫(道成寺)、平将門、安倍晴明、酒呑童子、安寿姫と厨子王、源頼光の話。
孤高の英雄の話や、古い信仰の奇跡のような話が目立つ。

当管理人としては、これらのほか、文学や芸能や職能について見落とすことはできないと思うので、東国を旅した在原業平、琵琶法師の蝉丸、木地師の祖とされる惟喬親王の話などを追加したいところである。
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まつり(祭)の語源

まつり(祭)という言葉の古い意味は、つまり、しきたり通りに行うことであると、折口信夫の本にひとことだけ書かれた部分があったと思う。
しきたり通り行うとは、毎年繰り返すことであり、季節が繰り返し、年月、そして人々も世代をこえて、大事なものを繰り返し伝えて行っているということである。
「政治」の意味の「まつりごと」の元の意味も「しきたり通り行うこと」であったらしい。

まつりという言葉は、日本語の基本語中の基本語であり、他の言葉から派生したというような語源説は当たらないことだろう。むしろ、まつりという言葉がどのように意味を広げていったかを見るのが良いと思う。

「たてまつる」とは、食物などを献上したり相手をもてなす意味である。「たつ」とは、煙や湯気が立つように、下から上へ向かって新しいものが現れることで、「たてる」は、上に向かって現れるようにすることなので、それだけで「献上」の意味に近くなる。祭では物を献上したり神をもてなしたりすることは不可欠のことなので、「たてまつる」を「まつり」の語源とする説もあり、たいへん魅力があるのだが、「たてまつる」は派生語として後からできた言葉なのだろう。

「つかえまつる」とは、大祓詞では建物などを作って差し上げることで、「つかえる」に「築く、作る」の意味があるようだ。その建物のもとで奉仕する意味から、服従の意味に広がっている。「まつろう」(服従する)という言葉もある。神につかえまつることも、祭の重要な要素だが、これらも言葉の源ではなく派生語なのだろう。

「まつり縫い」とは、洋裁などでも使われて多彩な意味になっているが、和裁では、半返し縫いの意味もあると辞書にある。和裁の方面は詳しいことはまったくわからないのだが、糸が表で少し戻っては裏では更に先に進んで行くようなことを繰り返して、まっすぐ丈夫に伸びたり、複雑な刺繍が完成するらしい。
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如月(きさらぎ)

春は名のみの風の寒さや、という唱歌の通りの昨日今日の気候である。

二月を、きさらぎといい、寒いので着物を着た上に更に着るから「衣更着(きさらぎ)」というのだなどという語源説もあるくらいだが、旧暦の二月は春分の前後をいうので、二月が寒いというのでは明治以後の語源説なのだろう。ほかの語源説では、芽の伸び始めで「生更ぎ(きさらぎ)」の意味というほうが、より説得力はある。広辞苑でも

  「生更ぎ」の意。草木の更生することをいう。着物をさらに重ね着る意とするのは誤

とある。大野晋氏の執筆と思われる。
「如月」と書くが、「如」の意味を小型の漢和辞典で調べたが、なぜそう書くのかはわからなかった。
「更」は改めるという意味であって、「着た上に更に」ということではないのだろう。

「如月の仏の縁」「更衣(きさらぎ)の別れ」という言葉もあり、如月は仏様に縁があるようである。
「鞍馬天狗」を書いた大仏次郎(おさらぎじろう)という作家は、天文学者の野尻泡影と兄弟だが、仏のことを「さらぎ」ともいったようなのだが、二月には涅槃会などの仏の重要な行事があったためなのかどうか。あるいは一説に「さらぎ」は仏に供物を供える容器の意味の古語でそれが転じて仏の意味になったともいうが、どうなのだろう。

次の歌二首は、春の陽気の二月と、まだ寒い二月を歌っている。

 ながめやる よもの山辺も 咲く花の にほひにかすむ 二月の空  近衛基平
 二月や なほ風さむき 袖のうへに 雪ませにちる 梅の初花    後宇多院
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