中将姫

北葛城郡当麻町 当麻寺

 むかし右大臣藤原豊成に、中将姫といふ娘があった。姫が九歳のころ、継母の照夜の前は家来の山下藤内に姫を殺害するやうに命じた。藤内の子の小次郎は、偶然この話を知ってしまひ、悩んではみたがやはり姫を護らうとして、屋敷に忍び込まうとする父に斬りかかった。しかし逆に父に殺されてしまった。

 ○しねばとて心残りはなかりけり。忠と孝とに覚悟しぬれば     山下小次郎

 姫は、十六歳で当麻寺の尼僧となった。お告げにより蓮茎を集めて糸を抜き、染井の井戸にひたして桜の木にかけると糸は五色に染まった。この糸を使って日夜機を織り続け、気がつくと一丈五尺四方の大曼陀羅が織りあがってゐたといふ。

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 当麻寺の裏の二上山を詠んだ歌。

 ○うつそみの人にある吾や、今日からは二上山をいろ()とわが見む   大伯皇女