立田越え

 むかし葛城に住む男女があったが、生活が貧しくなり、男はこの女を捨てて、河内国高安の女のもとに通ふやうになった。女はそれを知ってか知らずか、毎晩、男の夜の山越えを気遣ふ歌を歌ってゐた。

 ○風吹けば沖つ白波たつた山、夜半にや君が一人越ゆらむ      古今集

 陰でこれを聞いた男は、河内へ通ふのをやめて元の女に戻ったといふ。(大和物語)

 女は毎晩髪を洗って、気持を冷やしてゐたともいふ。

 ○春柳、葛城山に立つ雲の、立ちてもゐても、(いも)をしそ思ふ     万葉集2453