葛城一言主大神

御所市

 むかし雄略天皇が葛城山で狩りをされたとき、天皇と同じ姿をして歩いてゐた人があった。天皇が不審に思って名を問ひただすと、その人は「吾は悪事も一言、善事も一言に言ひはなつ神、葛城の一言主(ひとことぬし)の大神ぞ。」といった。これを聞いた天皇は、

 ○(かしこ)しや、我が大神、(うつ)し臣、かくあらむとは、さとらざりきを

と言って、弓矢などを献上すると、一言主大神は、手を打ってそれを受けとり、ともに狩りを楽しんだといふ。(古事記)

 ○み狩する君かへるとて、久米川に一言主ぞ出でませりけり     夫木抄

 この神は御所市の葛城一言主神社にまつられる。里人には「いちごんさん」と呼ばれ、一言(ひとこと)だけ願ひを叶へてくれるといふ信仰になってゐる。二代綏靖天皇の葛城高岡宮址が近くにある。

 葛木坐火雷(かつらぎにますほのいかづち)神社(笛吹神社)の歌。

 ○笛吹の社の神は音に聞く遊びの岡や、ゆきかへるらん       藻塩草