三輪の糸

桜井市三輪 大神神社

 むかし三輪の里に住んでゐた活玉依姫(いくたまよりひめ)のもとへ、毎晩訪ねてくる身分の高さうな若者があった。姫はやがて懐妊したが、男の素性がわからないので、父母が智恵を授けて、一本の麻糸を男の袴に縫ひ付けておいた。明くる朝に糸を見ると、糸は鍵穴から外へ出て、道に向かって延びてゐた。更に糸をたどって行くと、三輪の神の杜の中へ続いてゐた。それで、三輪の神の子を懐妊したことを、一家は喜んだといふ。(大和物語)

 ○わが庵は三輪の山もと、恋しくは(とぶら)ひ来ませ。杉立てる門     古今集

 ○うま酒、三輪の殿の朝戸にも出でて行かな。三輪の殿戸を     古語拾遺

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 紀伊国屋文左衛門が破産後に三輪で詠んだといふ狂句。

 ○そうめんのふしや孟母の玉襷                  紀伊国屋文左衛門