浦島太郎

宮津市日置 竹野郡網野町

 むかし日置の里(宮津市日置)に浦島太郎といふ漁師があった。ある日釣り上げた亀は、異界の姫と化して、太郎を常世の国へ案内する。

 ○常世辺に雲立ちわたる、水の江の浦島の子が(こと)持ちわたる     浦島子

 ○大和辺に風吹き上げて雲離れ退()き居りともよ、()を忘らすな    亀姫

 ○水の江の浦島の子が箱なれや、はかなくあけて悔しかるらむ    丹後風土記

 ○君に逢ふ夜は浦島が玉手箱、あけて悔しきわが涙かな       お伽草子

 竹野郡網野町の網野神社は、もと浦嶼(うらしま)大明神といひ、彦坐(ひこまし)王(日下部(くさか べ)氏の祖)とともに、浦島子の神をまつる。近くに水江の地名もある。

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 舞鶴の田辺城を石田三成の軍に包囲され、篭城の覚悟を決めた細川幽斎は、万一に備へて家宝の歌論書の古今伝授の箱を、一時烏丸光広に預けた。戦ひが終ってのち、箱を返すときの光広の歌。

 ○あけて見ぬかひもありけり、玉手箱、ふたたびかへる浦島の波   烏丸光広

 幽斎のこたへた歌。

 ○浦島や光をそへて玉手箱、あけてだに見ずかへす波かな      細川幽斎