源頼政の鵺退治
平安時代の末、幼くして即位された近衛天皇のころ、天皇は毎夜丑の刻に怯えられることがあった。怪しいもののけの仕業らしい。そこで源頼政が召された。頼政は、山鳥の尾で矧いだ矢二筋を携へ、一族の井の早太とともに、夜を待って東三条の森に出かけた。
夜が更けて月夜を俄かに黒雲が覆った。頼政が八幡大菩薩を祈って矢を射ると、確かな手応へがあった。落ちた場所に急いで、井の早太がとどめを刺した。雲が晴れて弓張りの月が照らすと、その怪物の姿は、頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎、喘ぎ鳴く声は
○ほととぎす、名をも雲居にあぐるかな 藤原頼長
頼政は次のやうに付けて、剣を受けた。
○弓はり月の射るにまかせて 源頼政
その怪物はうつほ舟で流したといふ。
その後、二条天皇の応保のころ、鵺といふ怪鳥が、禁中で鳴き叫んで天皇を悩ませたので、再び頼政が召された。夕暮れの五月闇のなかで、鵺は一声しか鳴かない。そこで頼政は、まづ大鏑を射上げ、その音に鵺が驚いて声をあげたところを射落とした。天皇は褒美の御衣を賜はるに、右大臣公能を遣はした。公能が頼政に詠み掛ける。
○五月闇、名をあらはせる今宵かな 藤原公能
頼政が付ける。
○たそかれどきも過ぎぬと思ふに 源頼政
後世に、鵺の声が聞えたときに災ひをのがれるための、まじなひの歌がある。
○こちみ鳥、我かきもとに鳴きつなり。人まで聞きつ。ゆくたまもあらじ 拾芥集