利根郡の武尊山の南麓の川場村の貧しい家に、江口きちは生まれた。青春を白痴の兄とともに生き、歌を詠み、薄幸の生涯を閉ぢた。 ○武尊嶺(ほたかね)はわが生(あ)れどころ、小さきいのち、いのち終らば眠らむところ 江口きち 昭和十三年暮れ、二十六才で自殺する朝の歌。 ○大いなるこの寂(しづ)けさや、天地(あめつち)の時刻あやまたず、夜は明けにけり 江口きち