伊奈良の沼

邑楽郡板倉町

 県の東端の水郷の町、邑楽郡板倉町は、万葉集によまれた伊奈良(いなら)の沼があった所といはれる。

 ○上つ毛野いならの沼の大ゐ草、よそに見しよは、今こそ益され    万葉集

 この沼の名残が、雷電神社の東の雷電沼である。雷電神社は、もとは広大な沼に浮かぶ小島にまつられてゐたといふ。むかし坂上田村麻呂将軍が蝦夷と戦って苦境におちいったとき、雷電社の神の化身といふ「不思議の童子」に救はれた。将軍は、その報賽に、伊豆国板倉山から良材を運び、三年をかけて社殿を造営寄進した。延暦二四年のことで、新築の祝の庭に、どこからか金色の冠を着けた翁が現れ、歌舞ひをしたといふ。

 ○雷公は、雲の間に乗り遷り、そのままそこに、宮造りせし