種まき権兵衛

北牟婁郡

 旧紀伊国北牟婁郡の上村権兵衛は鉄砲の名人で、畑ももってゐたが、おもに山で狩りをして暮しを立ててゐた。あまり畑に出ないものだから、子どもの歌に歌はれた。

 ○権兵衛が種まきゃ烏がほじくり……

 そのころ天倉山に大蛇が住み、村の畑や家畜を荒らした。権兵衛は村のために鉄砲をもって山に入った。権兵衛の笛の音に誘はれて大蛇が現はれると、権兵衛は蛇ののどもとに二発三発と鉄砲を撃ち、大蛇は息絶えた。権兵衛はこのとき蛇の毒気にあてられたのがもとで、病気になり、元文元年(1736)に大往生をとげたといふ。