伊勢詣り

伊勢市

 ○春めくや人さまざまの伊勢まゐり  荷けい

 徳川時代には全国的に伊勢参りが盛んになった。中でもほぼ六十年に一度、数百万人が移動したといふ「お蔭参り」の年は、宿などの施しがあったお蔭で少ない費用で旅ができたといふ。関東東北では、犬の首に「伊勢参宮」と書いた袋を下げて初穂料を入れておくと、旅人たちの親切によって犬は伊勢まで歩き、神宮で袋におふだを入れてもらって故郷に帰ることができたといひ、「犬の伊勢参り」といはれた。

 普通は、村の代表が村の費用で代参して「大神宮様」または「おはらひ」と呼ぶおふだを村の戸数ぶんだけいただいて帰った。組織的にも村祭の延長上の行事であり、村の鎮守社の前では、村に残った者が、代参者の旅の無事を毎日祈った。代表に選ばれた青年たちにとっては、参宮の旅は、村の成人儀礼を兼ねる場合もあった。諸国の一宮は必ず詣で、民衆の教養ともなっていった。

 また伊勢からは御師と呼ばれる旅の神職が村々を訪れておふだを広めた。かうして大神宮様のおふだは、江戸時代から全国民くまなく行き届いてゐた。現在でも多くの国民が年末に鎮守社を通しておふだを受けてゐる。