安寿と厨子王と母

佐渡

 安寿や厨子王と生き別れになり、目が見えなくなった母は、佐渡の鹿ノ浦に売られ、気がふれて、毎日悲しげな歌を歌ひながら鳥を追ひかけて暮らしてゐたといふ。

 ○安寿恋しやほうやれほ、厨子王恋しやほうやれほ

   鳥も生あるものなれば、疾う疾う逃げよ追はずとも

 村の子どもが、悪戯に「安寿です、厨子王です」とからかった。母はそれが嘘とわかると、怒って棒きれを振り回した。やがて本当の安寿と厨子王が母の前に現はれたが、母は既にすっかり狂ってしまってゐて、振り回した棒きれが安寿に当たって、安寿は死んでしまった。驚いて正気に戻った母は、厨子王とともに中の川の上流に行き、安寿を葬った。死んだ安寿の涙は、毒になって中の川を流れたといふ。

 ○片辺、鹿の浦、中の水は飲むな、毒が流れる日に三度

 安寿を葬った後、母が金泉村の泉で目を洗ふと、目が開いた。厨子王と母は感謝をこめてここに地蔵を建て、「眼洗ひ地蔵」といはれた。