筑波山麓四六のガマ

 がまの油を主成分とするといふ軟膏を大道で売りさばく香具師の口上。がまの油売りは関東の筑波山、関西の伊吹山が知られる。

 「サアサアお立合ひ、ご用とお急ぎのない方、ゆっくりと聞いてらっしゃい。遠出山越え笠のうち、聞かざるときは物の白黒、出方、善悪がトンとわからない。山寺の鐘がゴンゴンと鳴るといへど、童子きたってしゅもくをあてざれは、トンと鐘の音色がわからない。

 サテお立合ひ、手前ここに取り出だしたるは万金膏ガマの油、ガマと申しましても普通のガマとは違ふ。これより北、北は筑波山の麓、オンバコといふ露草を食って育った四六のガマだ。四六、五六はどこで見分けるか。前足の指が四本、後足の指が六本、これを合はせて四六のガマ。山中深く分け入って捕へましたるこのガマを、四面鏡ばりの箱に入れたるときほ、ガマは己が醜き姿の鏡にうつるを見て驚き、タラーリ、タラーリと油汗を流す。この油汗をば柳の若葉にて、三七と二一日の間、煮つめましたるが万金膏はガマの油。

 このガマの油の効能は、ひび、あかぎれ、しもやけの妙薬。まだあるよ。大の男が七転八倒する虫歯の痛みもピッタリ止まる。しかし、お立合ひ、口上だけではわからない。刃物の切れ味をとめてみせようか。取り出だしたる夏なほ寒き氷のやいば。一枚の紙が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚、一六枚が三二枚、三二枚が六四枚、ホレこの通りフッと散らせば比良の暮雪は雪降りの型。これなる名刀もひとたびガマの抽をつけたるときは、たっちまちなまくら。押しても引いても切れはせぬ。サア、ガマの油の効能がわかったら買っていきな。」(「茨城県の歴史散歩」より引用)