筑波山
昔、祖先の大神が、諸国を旅したときのこと、駿河の国で日が暮れてしまった。そこで富士の神に宿を請ふと、「今日は
○
(筑波嶺の歌垣で逢はうと約束したあの娘は?)
(いったい誰の誘ひを受けて、もう神山に籠ってしまってゐるのだらう)
筑波山には男体山と
○筑波嶺の嶺より落つるみなの川、恋ぞつもりて淵となりぬる 陽成院
昔、西行法師が筑波山に登らうとすると、岩の上に若い女が立ってゐたので、不思議に思って、歌を詠んだ。
○磯遠く海辺も遠き山中に、わかめあるこそ不思議なりけり 西行
女は実は
○筑波とは波つく山といふなれば、わかめあるとも苦しかるまじ
歌に負けた西行は、恥ぢ入って、その場から引き返して下山したといふ。その地を「西行戻し」といふ。「西行戻し」と呼ぶ地は全国に分布し、西行が女や子供に歌で負ける滑稽な話になってゐる。