江口の遊女
東淀川区
今の淀川と神崎川の分岐点付近に、江口といふ古くから栄えた港があり、遊女の伝説もある。
むかし西行法師が江口の里で宿を乞ふと、その家から「妙の君」と名告る遊女が現はれ、ここは僧の泊まるところではないのでと断ってきたので、西行は歌を詠んだ。
○世の中を厭ふまでこそかたからめ、かりの宿りを惜しむ君かな 西行
妙の君は、さらに歌で断った。
○世をいとふ人とし聞けば、かりの宿に心とむなと思ふばかりな 妙
西行は、妙の君の歌に感心し、そこを引き下がって他の宿を求めたといふ。妙の君はのちに寺を建て、死ぬときは普賢菩薩の姿になって天に昇ったといふ。
後世のこと、ある旅僧が江口の里を訪れると、積塔があるので、里の男にその言はれを尋ねてみると、遊女の墓だといふ。僧は、伝説の西行法師の歌を思ひ浮かべた。するとどこからか女が現はれて、遊女妙の君の歌を口にした。女は自分が妙の化身だと述べた。(謡曲・江口)