石童丸
高野山
筑紫の加藤左衛門氏繁は、ある年の花見の宴で、ふと無常を感じ、歌を残して都へのぼり仏の道に入った。
○ましらなく深山の奥に住みはててなれゆく声や友と聞かまし
筑紫ではまもなく子の石童丸が生まれた。父氏繁は十三年間の修行の後ち、高野山に入った。そのころ、石童丸は母と連れ立って、父に会ふために高野山への旅に出た。高野山は女人禁制のため、母はふもとの村に残り、石童丸一人で山にのぼった。高野山には三千の寺と二万人の僧がゐるといふ。道行く僧のすべてに父の名を告げて聞いても、知るものはなかった。ある日、ふと声をかけた僧に、父は既に死んだと告げられた。
○父母のしきりに恋し雉子の声 芭蕉
○忘れても汲みやしつらむ。旅人の高野の奥の玉川の水 弘法大師