竹生島、伊吹山

 むかし夷服(いふき)岳(伊吹山)と浅井岳が高さを競ったとき、浅井岳が頭を斬られて、頭の部分が琵琶湖に落ちて竹生島(ちくぶじま)となったといふ。浅井岳の浅井比売命は都久夫須麻(つくふすま)神社にまつられる。

 ○目に立てて誰か見ざらん、竹生島、浪にうつろふ朱の玉垣     隆祐

 竹生島には弁天様がまつられてゐる。源平の争乱のころ、平経正がここに参篭し、名器「仙童の琵琶」を借りて、弁天様の前で上弦石上の曲を夜通し奏でた。すると白龍(白狐ともいふ)に姿をかへた神が現はれたといふ。

 ○ちはやふる神に祈りのかなへばや、しるくも色のあらはれにけり  平経正

 竹生島の周囲には大鯰が棲み、中秋の名月のころに、島の北に大群が集まって踊り狂ふのは、弁天さまが招き寄せたものといはれる。

 ○月の出も間近かるべし。鯰つる沼の面白く水明りせり       若林健二

 伊吹山は、古代からお灸の原料の(もぐさ)など、薬草の産地だった。

 ○かくとだにえやは伊吹のさしもぐさ、さしも知らじな燃ゆる思ひを 藤原実方

 織田信長もここに海外の薬草を植ゑ、広大な薬園をつくったといふ。