笑ひ地蔵

安八郡墨俣町

 西行法師が弟子の西住とともに美濃国を訪れたとき、村雨に遇ひ、近くの小堂に雨宿りした。居合せた里人がいふには、この堂の地蔵尊は、墨股川(長良川)の橋柱(はしはしら)が水中で夜毎に光ってゐたので地蔵菩薩に彫刻したものなので、霊験が多いのだといふ。そこで西住が詠んだ。

 ○朽ち残る真砂の下の橋はしら またさま変へて人渡すなり     西住

 すると地蔵尊が微笑んだので「笑ひ地蔵」と呼ばれるやうになったといふ。各地に似た話がある。橋柱とは、橋を支へる支柱ではなく、橋の真下の川底に呪的な意味で埋められた柱である。人柱の伝説も、後の人が橋柱の意味を想像してゐるうちに出来上がったものらしい。