位山の神

 むかし雲の波をかきわけて天津船(あまつふね)に乗って位山(くらゐやま)に天降った神があった。この位山は、高山盆地から南に望む位山のことともいふが、長野県境の乗鞍岳のことともいふ。飛騨地方ではこの神は神武天皇に位を授けた神とされる。この神の姿は、身体が一つで頭が二つ、手が四つで足が四つの巨人で、両面宿難(りょうめんすくな)と呼ばれ、水無神のことだともいふ。仁徳天皇紀に、武振熊(たけふるくま)に滅ぼされた飛騨(ひだの)宿禰(すくね)の話があり、この神のことだらうといふ。(坂口安吾・安吾新日本地理)

 ○位山、峰までつける杖なれど、今よろづ代の坂のためなり     大中臣能宣

 飛騨の位山の(いちひ)の木は、笏の材料として古代から皇室に献上される。