早池峰山

遠野物語

 むかし女神があり、三人の娘とともに早池峰の高原に来て、来内(らいない)村の伊豆権現の社で宿をとった。その夜、母の神は、「今夜よい夢を見た娘に、よい山を与へませう」と語り、皆で寝た。その夜更けに天から霊華が降って、姉の姫の胸の上に舞ひ降りた。末の姫は、眼が覚めてこれを見て、内緒で霊華を取って、自分の胸の上に載せた。それで末の娘は一番美しい早池峯の山を得て、姉たちは六角牛(ろっかうし)山と石神山を得た。三人の姫神は今も三つの山に住んでゐる。遠野の女たちは姫神たちの嫉妬をおそれてこれらの山に遊ぶことはないといふ。(遠野物語より)

 ○冬ちかみ、あらしの風と、はやちねの山のかなたや時雨そめけむ 菅江真澄

 早池峰の神は岩手山の神の妻だが、玉山村の姫ヶ岳(姫神山)が本妻だともいふ。

 遠野地方は、明治の末に柳田国男が「遠野物語」で紹介して以来、昔話の里として全国に知られるやうになった。「遠野物語」の序文の端に記された歌。

 ○翁さび飛ばず鳴かざる、をちかたの森のふくろふ笑ふらんかも  柳田国男