小島の暗河

奄美大島

 ○だんと(うとう)わたる 島尻ぬ暗河(くらかは) をなり、ゐひり知らぬ あはれ暗河(くらかは)

 暗河とは、洞穴の奥に湧き出してゐる地下の湧き水のことをいふ。男の兄弟をヰヒリと呼び、女の姉妹をヲナリと呼ぶ。
 むかしある(ゐひり)が草履を二足作って、(をなり)のところに持って来て言った。「良いほうを私の恋人にやってくれ。それで悪いほうはお前が履くやうに」と。ところが(をなり)は、良いほうの草履を気に入ってしまひ、それを自分で履いて、悪いほうを、兄からだと言って恋人にやった。ある日兄が暗河の前を通ると、入り口に自分の作った草履が置いてあった。中に恋人がゐるものと思って、中に入ってねんごろになった。そのため(をなり)は自ら命をたったといふ。