蛇淵

 作州高貴山菩提寺城の城主、菅原実兼は、寺に参籠中に美しく高貴な姫君と知りあった。妻として迎へ、子の太郎をまうけたが、ある嵐の夜、妻は一首を書き残して姿を消してゐた。

 ○恋しくば那岐の谷川棲む身なり、変る姿も一目さはるな

 妻恋しさに実兼が那岐谷の蛇淵を訪ねると、青々とした水底に巨眼を光らせて蠢いてゐる大蛇を見た。美しい妻は大蛇の化身だったのである。