久米の皿山

津山市

 西日本に広く伝はる昔話である。

 娘は、継母の言ひつけで、毎日川で洗ひものをさせられた。ある日、娘が川で笊(ざる)を洗ってゐると、殿様が馬で通りかかった。殿様は一目で娘を気に入り、妻に迎へることにした。殿様が娘の家を訪ねると、継母が二人の娘を前にして、実の子の(いもうと)を推薦するのである。そこで殿様は、盆に皿を置き、皿に塩を盛って松を植ゑ、姉妹に歌を詠ませた。(いもうと)が詠んだ歌はこんなものである。

 ○盆の上に皿ある、皿の上に塩ある、塩の上に松ある

 次に継子の姉が詠んだ。

 ○盆さらや、さらてふ山に雪ふりて、それを根として育つ松かな

 姉の勝ちとなり、姉娘は駕篭で揺られて、お輿入れとなった。娘の里にある山を、皿皿山と呼ぶやうになったのは、このときからであるといふ。

 ○美作や久米の皿山、さらさらにわが名は立てじ、万代までに   古今集

 古今集の歌の「久米の皿山」は、津山市中島の佐良山を歌ったものといふ。