馬槽

下野国(所在不明)

 むかし下野国に長年暮した夫婦があったが、男が心変はりして、妻の家をすっかり引き払って他の女と住まうとした。妻の家に下男の「まかぢ」が使ひにやってきて、最後に残った馬槽(馬の餌箱)まで持って行かうとするので、妻は歌を付けてやった。

 ○ふねも往ぬ。まかぢも見えじ。今日よりはうき世の中をいかで渡らむ

 この歌を見て、男は妻の心に打たれて、縒りを戻したといふ。(大和物語)