室の八島

栃木市国府町

 栃木市国府町の下野国総社大神神社の池は、かつて八つの島が浮んでゐたことから「室の八島」と呼ばれ、水面からは常に水けむりを発生させてゐたといふ。

 ○いかでかは思ひあるとも知らすべし、室の八島のけむりならでは  藤原実方

 むかし下野国のある長者の娘を、国司が見初めて求婚した。長者はさっそく婚礼の準備をすすめたが、そのころ長者の家では九州から来たさる高貴な青年を宿泊させてゐた。娘がこの青年の子を宿したことを知った長者は、困りに困り果てた末に、妙案を思ひついた。娘が死んだことにして、棺にツナシ(鮗{このしろ}の方言) といふ魚を詰め込んで、国司の使の前で焼いて見せたのである。鮗を焼くにほひは、死体を焼く臭ひに似てゐるといふ。

 ○東路(あづまぢ)の室の八島に立つ煙、誰が子の(しろ)につなし焼くらん

 子の代として焼いたことから、この魚を「このしろ」といふやうになったとか。