下北半島の北、下北郡大畑町の八幡宮に、後醍醐天皇御宸筆の和歌があるといふ。

 ○した紅葉かつ散る山の夕時雨、濡れてや鹿のひとり鳴くらむ   後醍醐天皇

 この地の材木業の菊池家が、文化四年(1807)に松前へ移住するにあたって神社に奉納したものといふ。菊池家は屋号を熊野屋といひ、その先祖は南北朝のころ紀州熊野から移住してきたもので、この歌はその先祖が賜ったものといふ。

 古くからの樵には、木地師が惟喬親王を祖とするやうに、先祖に関するさまざまな伝承があったと思はれる。東北地方には良い樹林とマタギがあり、林業は近世までの繁栄の元の一つだったやうだが、明治の戊辰戦争で会津藩他諸藩が敗れて以後、東北地方の山林は極度に高い比率(九十五パーセント以上、『風土記日本』による)で国有化され、以来「貧しい東北」のイメージが成立して行ったといふ。