うとうやすたか

青森市安方 善知鳥(うとう)神社

 津軽の海岸に住む善知鳥(うとう)は、ウミスズメ科の鳥で、上くちばしにこぶ状の突起があり、鳴きかたにも特徴がある。親鳥がウトウと鳴くと、子の鳥はヤスタカと鳴いて巣から出て来るといふ。そこで漁師は親鳥の声を真似て、子が出てきたところを捕へるのだが、それを見た親鳥は血の涙を流して飛び回るといふ。その涙がからだに付くと腐るので、蓑と笠を着けて捕へたのだといふ。

 ○子を思ふ涙の雨の、笠の上にかかるもわびし。やすたかの鳥   西行

 ○みちのくの外が浜なる呼子鳥。鳴くなる声は、うとうやすたか  藤原定家

 むかし外が浜の漁師が、鳥の祟りのために死に、その霊は子孫にも会へずに諸国をさまよってゐた。霊は越中立山で、ある僧に出会ひ、僧に自分の供養を依頼した。そして僧が外が浜を訪れて祈祷することによって救はれたといふ。以来、死んだ漁師が、あの世で血の雨を浴びて苦しまぬやうに、蓑と笠をその霊前に供へるのだといふ。(謡曲・善知鳥)

 青森市に善知鳥神社があり、江戸時代の由来記によると、むかし善知鳥中納言安方朝臣といふ人が、讒言によって流罪となってこの地に住み、先祖の守り神である宗像の神(市杵島姫ほか二神)をまつったのが、善知鳥神社であるともいふ。あるとき漁師が善知鳥を射殺したために、数万羽の大群が田畑を荒らしたので、安方朝臣の祟りだと恐れて鳥の霊をまつった祠の跡が境内にあるといふ。