小川原湖の姉妹

 むかし京の公卿の橘道忠といふ人が、讒言によって陸奥国に流された。京に残された二人の娘は、父を慕って慣れぬ旅支度で陸奥国を訪れたが、道に迷ひ、ある美しい月の夜に父の幻を見て、次々に小川原沼に導かれて身を沈めたといふ。沼には大蛇が棲んでゐたともいふ。

 ○姉といもとが小川原の沼に、浮かぶ瀬もない大蛇ゆゑ

 橘道忠は、白鳳のころの人で、仏の教へのままに旅に出たともいふ。姉妹の名は玉代姫、勝世姫といひ、湖畔の沼崎観音にまつられてゐる。