能地の浮き鯛

三原市

 むかし新羅へ向かふ神功皇后の船が、能地(のうぢ)(三原市)の瀬戸を通ったとき、鯛の群れが船に寄ってきた。幸先の良いことだと皆で喜び、海に樽酒をふるまったので、鯛は酒に酔って浮かび上がったといふ。以来、春になるとこの海では鯛が浮かぶのだといふ。春に産卵のために瀬戸内に戻ってきた鯛が、ここの狭い海峡で潮流の変化に遭遇し、一瞬浮き袋の調節機能がうまく働かなくなるらしい。今は鯛そのものが減って来ないさうだ。(末広恭雄「魚と伝説」)

 ○春来れば、あちかた海の一かたに浮くてふ魚の名こそ惜しけれ

 ○水底に酒瓶ありと聞くからに、浮きたいよりは、こちゃ沈みたい  茶山

 むかし能地の漁民は、船を家として船上生活をし、平家の落人との伝説もあった。