音戸の瀬戸

安芸郡音戸町

 呉市と倉橋島の間の音戸の瀬戸は、幅が狭く、潮の速さは滝の如しといふ。

 ○ふなだまの(ぬさ)も取りあへず、落ち(たぎ)つ早き(うしほ)を過ぎにけるかな  鹿苑院

 ○船頭可愛や音戸の瀬戸で、一丈五尺の櫓が弱る  音戸の舟唄

 この瀬戸は、むかし平清盛が厳島の神と約束して掘り開いたといふ。掘り終らぬうちに日が沈みさうになったので、清盛は日招(ひをき)山にのぼり、太陽に向かって扇を振って日を招き、日没を留めさせたといふ。高田郡吉田町の田植歌にも歌はれる。

 ○音戸の瀬戸を切り抜く清盛こそは日の丸の扇で御日を()ぎもどいた

 田植を一日で植ゑ終らないときに長者が扇で夕日を戻したといふ話は、諸国に多い。昔は田植に吉い日と悪い日が決まってゐたため、一日で植ゑなければならないことも多かったらしい。