田沢湖

田沢湖町

 ○吹けや生保内東風(おぼねだし)、七日も八日も、吹けば宝風、稲稔る     生保内節

 田沢湖町の生保内(おぼない)地区は、角館から盛岡に至る街道の宿場町として栄え、秋田民謡の中心地ともいふ。県内最古の民謡といはれる生保内節に歌はれる「生保内東風」とは、東の県境の山から吹き下ろす風のことで、夏にはフェーン現象をともなった暑い風となり、高原地帯に稲の稔りをもたらす宝の風なのだといふ。

 田沢湖は大昔は小さな泉だったといふ。むかし村の少女たちが春の草を採りに山で遊んだとき、村一番の美しい少女の辰子姫(田鶴(たづ)とも)は、岩陰の小さな泉を見つけて、その水を飲んだ。飲んでも飲んでものどは渇くばかりで、いつしか辰子姫は竜の姿となってゐた。泉に映る自分の姿を見て辰子姫が悲鳴をあげると、その声は雷鳴となって鳴り響き、大雨を降らして、一夜のうちに今の田沢湖が出来たといふ。辰子姫はそのまま田沢湖の主となり、「御座の石神社」にまつられてゐる。

 ○わしとお前は田沢の潟よ、深さ知れない御座の石        生保内節

 八郎潟の主の八郎太郎が、田沢湖の辰子姫のもとに通ったとき、燃えかけの松明(たいまつ)を湖に落としてしまった。松明はクニマスといふ田沢湖だけに生息する魚となったといふ。