錦木

(にしきぎ)

 古代の陸奥国(東北地方全域)では、男が女に求婚するとき、一束の薪を毎日女の家の門に立てたといふ。この薪は彩色して飾りたてることから錦木といった。女は、逢ふべき男のものは取り入れるが、さうでない男のものはそのまま置く。男は、千束になるまで、つまり三年続けてだめなら諦めるといふ。

 ○錦木は千束(ちつか)になりぬ。今こそは人に知られぬ寝屋(ねや)の内見め

 女は、結婚のために、鳥の羽で細布を織って待つ。この布は幅が狭くて短いので、背中は覆ふが前で合せることができず、下着として着るのだといふ。

 ○錦木は立てながらこそ朽ちにけれ。今日の細布、胸合はじとや

 許されなかった恋のために、三年錦木を積んだ末に自ら命をたった男を葬った塚の中で、女が閉ぢこもって細布を織ってゐるといふ伝説もある。(謡曲・錦木)

 ○錦木のふることしのぶこの夕べ、秋風さむし、毛馬内(けまない)の里    入江為守

 鹿角市十和田毛馬内のほか、各地に伝承地がある。