那須大八郎 鶴富姫

東臼杵郡椎葉村

 東臼杵郡の山間の椎葉村に、平家の落人が逃れて暮らしてゐた。この山里に追討軍としてやって来たのが、那須与一の弟の那須大八郎である。落人たちの中には大八郎に刃向かって殺された者もあったが、多くは従順な態度で降伏した。大八郎は無用な殺生を避け、鎌倉には全員打首にしたと報告し、しばらくこの静かな山里で暮らすことにした。落人たちは大八郎の寛大な処置に感謝し、また鶴富(つるとみ)姫といふ美貌の娘に身の回りの世話をさせた。二人は深い仲となり、姫は大八郎の子を宿した。だが大八郎にはやがて鎌倉へ帰る日が来た。大八郎は姫に那須家伝来の「天国の太刀」を与へ、生まれた子が男子ならこの刀を授けて那須へ連れて来るやうに言って、村を後にした。

 ○那須の大八、鶴富おいて、椎葉立つときゃ目に涙       稗搗節

 生まれた子は女の子だったが、成長して婿をもらひ、婿は那須下野守宗久と名告った。今でも椎葉村には那須姓が多く、この昔話を伝へてゐる。村の十根神社には大八郎が植ゑた栃の木が茂る。