鳥柴の木

楊枝のとこを、クロモジともいうが、クスノキ科の落葉低木でクロモジという木があり、昔から楊枝の材料に用いらたのでそういうらしい。楊(柳)などとともに、噛むと香りがすることが、珍重されたのだという。

柳田国男『神樹篇』によると、東北地方や新潟県を中心に、クロモジの木のことを、トリシバ(鳥柴)あるいはトリキ(鳥木)ともいう。そのいわれについては「鷹狩の獲物の鳥を人に贈るのに必ず一定の樹の枝に結わえ付けて持って行く作法があったが、中でも四季を通じて最も普通に用いられたのがこのクロモジの木であったがゆえに、それで鳥柴という名が生まれた」ということが昔の多くの鷹狩の家の伝書などに伝わっているらしい。

柳田翁は、さらに猟師が獲物の一部を神に供えるときにも、枝に挿したりする同じような方法が用いられ、これと通ずるものだろうという。「鳥と耳寄りな話」でも述べた方法である。さらにまた正月の餅花繭玉も起源は同じなのではないかともいう。
正月の門松にも、食物を付ける風習の地方もあり、同様のものということになる。

門松は、正月の神が留まる依代(よりしろ)あるいは神が訪れるための標(しるし)でもあるのだが、同時に神への供え物でもあることになる。正月の鏡餅などは、供え物であるとともにご神体でもあるなどとは、よくいわれることである。

アイヌのイナウは、木の枝の表面を細く削ってふさふさと垂らし、御幣のようなもなのだが、この枝もクスノキ科の木がよく用いられたという。
幣(ぬさ)を付けて神の依代とされる代表的な木は、(さかき)である。今の植物学で言うサカキは、枝が香ることはなく、またサカキは北国や雪国には生育しないことから、古典に詠まれた「榊」は、そうした楠科の樹木を含めてのものではないかともいう。

 榊葉の香をかぐはしみ とめくれば 八十氏人ぞ まとひせりける(拾遺和歌集)
 少女子があたりと思へば 榊葉の香をなつかしみ とめてこそ折れ(源氏物語)

参考 柳田国男『神樹篇』 和歌の引用は「神木を詠める和歌」(和歌集成)より
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