泡盛

 沖縄県特産の米焼酎、泡盛(あわもり)は、那覇の首里城の城下町などで造られ、かつては酒造所(さかやー)ごとに異なる黒麹菌をもち、独自の味を競ったといふ。それが第二次世界大戦の沖縄戦で米軍によって焼き尽くされたため、戦後はわづかに生き残った同じ菌によって、それぞれの杜氏たちの工夫によって造られてきた。数年前に、東大の研究所に多数の黒麹菌が保存されてゐることがわかり、その菌をもとにした酒造が開始された。首里の瑞泉酒造で生命をよみがへらせた酒は、「御酒(うさき)」と命名された。保存されてゐた菌は、酒の博士といはれた故坂口謹一郎東大名誉教授によって昭和の初めに収集されたもので、戦後の沖縄を詠んだ博士の歌とともに、今に伝へられたものである。(朝日新聞・天声人語)

 ○たまきはる命をこめし戦車はも、赤さびはてて荒磯に立つ    坂口謹一郎