なちじんの乙樽

今帰仁(なちじん)

 十三世紀ごろの沖縄は、北山、中山、南山の三つに別れて、それぞれに王がゐた。北山の今帰仁(なちじん)城下の志慶真(しけま)村に、今城仁(なちじん)御神(うかみ)と呼ばれた美しい娘があり、名は乙樽(うとだる)といった。乙樽は、第二の妃として城へ迎へられた。王にはなかなか若君ができなかったが、六十才で亡くなる直前に王妃が懐妊した。王の没後に生まれた若君は、千代松と名づけられ、乙樽が乳母として育て役になった。

 ○今帰仁の(ぐしく)霜成(しむない)九年母(くにぷ)、しじま乙樽が、ぬちゃいはちゃい

 まもなく開かれた若君誕生の祝宴で、突如謀反が起った。乙樽ら数人は千代松を守って城を抜け出したが、追手の迫る中で、乙樽は千代松と生き別れとなってしまった。十八年後、千代松は丘春と改名し、旧臣を集めて城を奪還した。城主となった丘春は、乳母だった乙樽を捜し出して、ノロ(最高の神女)に任命したといふ。