螢の歌、3つ

ホタルについての歌、というより、最初のは都々逸だが・・・

 恋にこがれて鳴く蝉よりも鳴かぬ螢が身をこがす

江戸時代のものだろうか。
恋のつらさにもいろいろあるが、蝉のように誰にもわかるように泣いて訴えることができるような恋なら、まだいい。螢のように、夜にひっそりと声も出さずに惑い耐え忍ぶ恋のほうが、悲しみも深くつらいものだ……
蛍の光に着目し、螢が自分の火でやけどをするかもしれない、という洒落やユーモアもある。

次に、平安時代の有名な歌。

 もの思へば沢の螢もわが身よりあくがれ出づる魂(たま)かとぞ見る 和泉式部

宵の闇の中をさまようように浮遊する螢。それは、恋に憧れて、我が身から飛び出ていった魂の姿に違いない。だから、行き場もなく飛び迷い、我が心は無心でもあり、空っぽで虚しくもある……
鳥は山の霊であるとか、死んだ人の霊であるとかの信仰があったが、虫も同様に人の霊などに見られることがある。蝶が眠っている人から出た魂に見られることもあったが、螢もそれに近いものがある。

以上の二つは、歌のプロによる技巧の歌という感があるが、次の近代の歌は、素朴な民俗をふまえたもの。

 その子らに捕へられんと母が魂、螢となりて夜を来るらし  窪田空穂

幼な子を残して死んだ母のことを歌ったものだろう。
夏の御魂祭りの季節に現われる螢は、人魂に近いものに感じられていたようだ。

(蛇足 「螢」は昔の字体のほうが螢らしい)
エッセイ風にもう少し長く書こうと思ったが、箇条書風になった。
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