三本足の動物

その昔、犬は三本足だったという。むかし弘法大師が、「笑」という字をどうしても思い出すことができず、三年間苦行した。あるとき、籠をかぶった犬を見て、その姿からやっと思い出したという。そこで弘法大師は、犬にお礼をしなければと考え、それまで四本足だった五徳の足を一本取って、犬に与えたので、そのときから、犬は四本足になり、五徳は三本足になったという。
 (※ 五徳とは、3本脚のある輪で、火鉢や囲炉裏の中に置いて、やかんなどを載せる道具)
笑い話のようだが、「日本俗信辞典」にある。
別の話では、犬に足を与えたのは別の大神様で、犬は感謝の気持ちを忘れないので、小便をするときは大神様にもらった足を汚さないように片足を上げるのだという。
犬もまた神の使いなので、そういった特別の生い立ちの説話が必要だったのではないかと思う。神に近かったから普通の動物とは違った形をしていたという考えがあったのだろう。

ウサギの左前足も、山の神にもらったものだという。これは撃たれて左前足を失ったウサギを山の神が憐れんで与えたという話である。
猟師が兎を捕獲したとき、左前足以外の三本の足を縛って持ち帰るのは、山の神のものを尊んでのことだという。
別の話では、兎の左前足は、お月様からもらったものだともいう。

中国では太陽の中に三本足のカラスが棲むという伝説があった。これが、熊野の八咫烏(やたがらす)の話と習合してしまったようなところもあるようである。
熊野の八咫烏は、神武天皇が南から大和へ入ったときの道案内をした烏であり、熊野の午王札にも多くの烏の絵が描かれる。午王札は起請文にも使われ、もし偽りをなす者があれば熊野で烏が三羽死ぬといわれた。

動物の三本足にまつわる伝説は他にもあるかもしれない。
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Comments

はるか | 2006/09/19 15:18
こんにちは

笑を犬のおかしな姿から思い出すこと。良かったですね。そして、神様から頂いた物にたいして決して感謝を忘れずに努力すること。大切な事がこのようにして伝えられてきたのですね。

感ずべき事にあたりて感ずべきを知りて感ずる でしたか。小林秀雄さんの言葉だったと思いますが、感ずる心・感謝の心を忘れないようにしたいと思います。
蝸牛歩 | 2006/09/20 11:29
はじめまして
そうですね。昔の人は笑い話の中にも神さまのことを忘れていません。笑いの中にも神々が出現し、つまり笑いとは、人の心をリラックスさせるための神々からの贈り物(または賜り物)なのかもしれません。

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