オノゴロ島

「島」とは、どんなものをいうのでしょうか。
広辞苑によると「周囲が水によって囲まれた小陸地。成因上から火山島・珊瑚島・陸島などに分類」とあります。
私などのように関東の二大河の利根川と荒川の接近した地域に住んでいると、大字の名前などで「〜島」という地名が実に多く、遥か古代にはこれらの川は想像を絶するような広い川幅の中に沢山の島々があったのだろうと、以前は思っていました。

けれど「周囲が水によって囲まれた」というような外から客観的な形状を眺めるような態度で古代の人が見ていたかというと、そんなことはないのでしょう。広辞苑の説明はあくまで地学などの自然科学による見方です。
月の形でいえば、十六夜(いざよひ)とか二十三夜待ちとか、日本人は、その満ち欠けの形よりも月の出の時刻に注意を払っていたことがわかります。つまり、十六夜とは日没から月の出までの半時余りの闇夜を神秘なものと見たものですし、二十三夜待ちとは下弦の月が出る夜中の12時ごろを待つ宵待ちのことです。

島についても、形ではなく時間の流れ、地形ですからかなり長い年月の流れになりますが、そういうふうに見ると、島とは、
古い時代に水の底だった土地が、歴史の経過とともに陸地となっていった土地
と定義するのが良いように思います。これが島の定義といっていいと思います。

長い年月の間に、川の流れが変化したり堆積によって「洲」ができます。「洲」をシマと読むのは、日本の国のことを「大八洲(おおやしま)」といっていたことでもわかります。では日本の国は、水の流れの堆積によってできたのでしょうか? じつは、そうともとれるような話が古事記にあります。 

古事記によれば、イザナキ・イザナミの命が結婚して、最初に出来たオノゴロ島は、もとは海水だけがあった所に、二神が天上から「あめのぬぼこ」という鉾(ほこ)を差し下ろして水を掻き回したら、鉾の先から塩がしたたり落ちてできた島だといいます。オノゴロ島も、元は水底だった場所が陸になった場所という意味では、前述の「島の定義」と食い違いはないのです。

かつて海の底だった土地が長い歴史とともに海水が引いて陸地となったような土地もあるでしょう。地名の中には、長い年月を経て受け継がれた記憶から名づけられるものも多いでしょうし、代々受け継がれた人々の記憶は、自然を主人公にした一つの物語に形作られて、地名に結実していったこともあったかもしれません。ここでいう自然とは神々のことでもあります。さらにはその土地でおきた歴史上の人間の物語も地名に篭めらることもあります。
和歌の修辞法である枕詞についての解説によると、「空みつ 大和」など枕詞は地名に付くのが古い形であり、古い物語を伝えるためのものであると言われるのですが、上に述べたような理由もあるのかもしれません。
そうやって、歴史は一歩を踏み出して行ったのでしょう。

 あしゆびもおのころ島をはなれねば、わが思ふこと、おほよそ虚し  釈迢空
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