日本風水

平安時代の京都はケガレに関して非常に気を使ったという。極端な例では、親の死に立ち会うと1年間は喪に服す意味で朝廷への出仕ができないので、つとめて親の死に目には会わないようにしていたという。死人が出たとき、同じ家にいなければそれは免れたらしく、また親以外でも死に立ち会っていればケガレを被ることになったらしい。
女の老いた親が病気になれば、その女のもとへは、ぱったりと通わなくなることもあったろう。女への愛情が薄れたわけではないのかもしれない。
ちょっとしたお出かけやら、毎日の行動についても、方位に気をつかったらしい。辻占などさまざまな占いがあったらしいが、風水思想も奈良平安時代に定着していったという。

日本風水風水は中国から輸入され、日本へ来て独自の変化をとげたことは想像されることだが、それについては戸矢学氏の『日本風水』(木戸出版)が参考になる。
桓武天皇の平安遷都も風水の影響が見られるようだが、どこか日本的で、それはやはり「自然との共生」という日本的なものによるらしい。鬼門についても、禁忌というとらえかたはやはり日本のケガレ観によるものなのだろう。同書では、江戸などの都市造りの問題や、地震予知などの話にまで広がっている。

紀伊国屋書店BookWeb 「日本風水」

戸矢氏の風水についてのコラムページも参考になる。
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沖縄のシラとスデ水

3年前にブームになった菊池寛の『真珠夫人』という小説は、大正時代に書かれたものですが、葬儀の場面を次のように書いています。

「その美しい眼を心持泣き脹して、雪のやうな喪服を纏うて、俯きがちに、しほたれて歩む姉妹の姿は、悲しくも又美しかつた。それに、続いてどの馬車からも、一門の夫人達であらう、白無垢を着た貴婦人が、一人二人宛降り立つた。」

「雪のやうな喪服」「白無垢」、葬儀での喪服は白だったことがわかります。黒になったのは服装が時代とともに洋風化されていったためでしょう。
「白」は再生・生れ変わりの色と意識され、死もまた魂の生れ変わりの一つと考えられたようです。
奥三河の花祭で知られる愛知県北設楽郡の山間の「白山(しらやま)」という行事では、白い木綿で白く覆われた小屋に、還暦を迎えた老人たちが入り、そこから出たときに小屋が壊される、ということが行なわれ、それは仮に死んで新しい生命として生き返る意味なのだろうといわれます。還暦に赤いちゃんちゃんこを着て、生れ変わって赤ん坊になるというのと同じです。
「白山」とは山に籠るといった意味なのでしょう。北陸の加賀白山(はくさん)の山岳信仰でも「擬死再生の呪法」が知られますが、それとの関係ははっきりしないそうです。

沖縄では、稲の貯蔵所や産屋のことをシラ、あるいはシダと言うそうで、生命を生み成長させるという意味がシラという言葉にあるというようなことを柳田国男翁も述べています。ラとダが入れ替わるのは日本語ではよくあります。稲の種籾や籾殻のこともシラというらしいです。
また沖縄では正月の若水のことをスデ水といい、若返った気分になることをスデルともいうそうで、このスデもシダから来たのだろうということは容易に想像できます。スデルには脱皮の意味もあります。

このスデという言葉が、本土ではどのように変化したかというと、ソダツ(育つ)という言葉です。さらにスヂ(筋)という言葉も柳田翁によれば同源だろうということです。
長野県など中部地方では、種籾を入れた俵のことをスヂ俵といい、正月には俵の上に松を飾り、春に半分は苗代に蒔き、半分は田植のときに炊いて食べるということが行なわれたといいます。

命を再生させる力、稔りをもたらす力をもつのは神なのですが、昔話ではこの神と村の長者の娘との婚姻譚は日本中で語られていました。その子孫たちに神のスデル力が伝えられていったわけですが、それがつまりスヂ、家筋のことではないかと、宮田登氏は言います。
以上は宮田登『ケガレの民俗誌』(人文書院)を参考にしました。
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『歌語り日本史』書評より

歌語り日本史----以下は以前に書かれたものです----
 出雲の八重垣神社に「和歌発祥の地」とした標があり、八俣の大蛇を退治した祭神の須佐之男命の詠まれた「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣作るその八重垣を」の歌が石に刻まれてゐる。この歌を始め、神話時代の歌から現代まで、有名無名の歌の数々とともに、日本史のエピソードを語った珍しい読み物である。
万葉集、有間皇子の歌に「磐代の浜松が枝を引き結び、真幸くあらばまたかへり見む」とあるが、これに関連しておみくじを枝に結ぶ習俗の由来が説明されてゐる。その他さまざまの習俗の説明や、名のある社の由緒の一端にも触れることができる。庶民の歌の多い万葉集に習ってか、近世の民謡や流行歌などが混じってゐるのが面白い。
 明治天皇御製と今の皇后様の御歌が、時代を越えて並べて紹介されてゐたりするのも味はひ深い。
 あさみどり澄み渡りたる大空の広きをおのが心ともがな(明治天皇御製)
 ふり仰ぐかの大空のあさみどり、かかる心とおぼしめしけむ(皇后様御歌)
 日本の歌には、旋頭歌、歌合、連歌など、二つ一組で、さらに別の世界を表現する伝統があるのである。本歌取りといふのも同様の精神なのだらう。
----『歌語り風土記』は管理人が数年前に書いたものです。興味のあるかたは次へメールをどうぞ。クリック
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