つくもの物語

どこからメモしておいたのか忘れたが……たぶん『国文学』という雑誌かもしれない……、「つくもの物語」という話。

よく熟した柿が一つある。動物たちが集まって、誰が食べるべきか話し合うが、年齢の高い者が食べるのがよいということになった。
鷺は、「みそさぎ」といって、三十。
鴫は、「よそしぎ」といって、四十四。
鳩は、「やへはと」といって、八十。
蜘蛛が、「百年に一年足らぬつくも(九十九)」といって、一番となって柿を食べたという話。

意味はよくわからないのだが、イソシギやイヘバトなら今の辞書に載っている。

 百年に一年足らぬつくも髪。我を恋ふらし。面影に見ゆ  伊勢物語

この歌は白髪の老女に恋われた在原業平が詠んだものである。
「つくも」とは「つくも草」のことで、老女の白髪のように見えるらしく、そこから老女の白髪を「つくも髪」というのだそうだ。
「つくも」は「つぐもも(次百)」の縮まったもの、次が百とは、九十九のことだから、九十九と書く。百に一つ足りないというわけで、百という漢字から一を除くと「白」となり、白髪のこと。さて草の名が元なのか、漢字の白が元なのかよく解らない説明だ。
九十九才のお祝いは白寿である。「お前百まで、わしゃ九十九まで、ともに白髪のはえるまで」とは女性の歌う民謡である。「共白髪」とは結納品で麻緒をたばねたものをいう。

美男で知られる在原業平に、老女が恋するとは奇妙な話かもしれない。しかし老女の恋は、古事記に、雄略天皇に恋した引田部の赤猪子(アカイコ)の話がある。赤猪子は志都歌(しづうた)を歌う巫女で、雄略帝を若返らせる歌を詠んだ。在原業平の色好みというか若々しさも、つくも髪の老女によって祝福されたものなのだろう。
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