柿の木の伝説

信州では亡くなった人の魂が家に帰ってくるときは柿の木に降りてくるといい、また幽霊は柳ではなく柿の木の下に出るという。
となると「柿本人麻呂」という名前はどういう意味になるのだろうか。
柿本神社のある島根県石見地方では、柿の種には人丸さん(人麻呂)が宿るから種も枝も燃やしてはいけないという。
兵庫県明石の柿本神社の柿は、人麻呂が植えたものだといい、その実を懐中すれば安産の御守りになり、また、火事の類焼を除けるために次の歌を書いて門口に貼るという。
焼亡(じょうもう)は柿の木まで来たれども あかひとなればそこで人丸
「人丸」に「火止まる」をかけて火事を防ぐのだという。また「人産まる」で安産の御利益の神といい、どちらも語呂合せにも見える。
日本俗信辞典によると、柿を燃やしてはならないという禁忌は全国に拡がり、荒神様が嫌うからだと説明されることが多い。また古くから火葬の行なわれた地方では柿を燃やして焼くので、普段は燃やしてはならないとされるようになったのではないかという。嫁入りに柿の苗をもってゆき、死んだときはその木で火葬にしたという地方もあるらしい。
普段燃やすことのない柿だから「火止まる」の力があるとするのは、語呂合せだけともいえないようだ。
「人産まる」についても、死を媒介することはあの世ともつながる木であり、新しい命もそこから行き来するのかもしれない。村の境や、坂などに植えられることも多かったという。
柿の実はすべて採らずに一つか二つ残しておくものだという。鳥のため、また旅人のためともいう。その実は「木守り(きまもり)」と呼ばれ、また来年の実りを約束してくれる木守りさんに供える実なのだともいう。来年の実りとは柿の実りのことだけではなく、すべての作物の豊作を約束してくれるということである。木守りさんとは木の神のことだろう。新年に豊作を祈る「成木責め(なりきぜめ)」も柿の木に対して行なわれることが多いという。
柿の実にはビタミンCも多く、高血圧にも良いらしい。
「雪月花 季節を感じて」に「柿のはなし」という秋らしい記事がある。
Comments
柿の木が霊木、憑代として大切にされてきたことは初めて知りました。わが家には柿渋染めのお座布団がありますが、尻に敷いてはバチが当たるでしょうか(笑 今日は柿色や色づき始めた木々の色に触発されたせいか、ある店で深みのある辰砂色の皿にひと目惚れしてしまい、衝動買いをしてしましました。少々気が早いようですが、わたしの中にひと足早く深秋が来たようです。
末筆ながら、駄句をご笑納いただければ幸いです。
里の野に祈りあつめる木守柿
柿は染物のほかさまざまな用途に用いられたようですし、生活に最も密着した果樹なのでしょう、布類は身を守るものでもあります。
焼物も良いですが「辰砂色」、良い言葉ですね。ちょっと知らなかったのですがネット検索ですぐに色まで確認できました。染物やら、色についての日本の文化も良いテーマです。
石上堅の「木の伝説」は、木の種類から目次を見ることはできず、索引もありませんが、内容はためになると思います。