ネズミとヨメ

鼠ネズミの嫁入りという昔話がある。鼠の親が強い者に憧れて太陽のところへ娘を嫁にやろうとするが、太陽を隠してしまう雲のほうが強いという。雲は自分を吹き飛ばす風のほうが強いといい、風はいくら吹いても動かない壁が強いといい、壁は自分をかじって穴をあけてしまうネズミのほうが強いという。けっきょくネズミのところへ嫁入りするという話。

ネズミのことを方言でヨメ、あるいはヨメ様という地方があるらしい。ヨメとはヨモノという言葉が縮まった言葉で、ヨモノとは「夜物、夜に活躍する動物。ねずみ・きつね・たぬきの類」と辞書にある(国語大辞典 小学館)。柳田国男によると、夜のということではなく、忌々しきモノの転であるという。怖れられた動物という意味であり、危害が及ばぬようにヨメ様とていねいに言うらしい。ネズミは農作物や蚕に危害を及ぼし、貯蔵してある穀物も食べてしまう。

幕末の怪盗、鼠小僧次郎吉は金持の蔵を狙ったことからそう呼ばれ、盗んだものを貧しい人に分け与える義賊だったという伝説になっている。鼠小僧は実在の人物で、実際は貧しい人に施すということはしなかったらしいが、幕末の不穏な世相の中で庶民のヒーローのように見られたのだろう。あるいはネズミという存在への畏怖が畏敬となり、義賊に祭り上げられてしまったのかもしれない。

滋賀県大津市の日吉大社の末社に祀られる鼠社は、時の帝に約束を守ってもらえなかった三井寺の頼豪という僧が復讐のために鼠に化けて荒れ狂ったとき、その鼠を封じ込めたときの祠だという。頼豪鼠という。

鼠が大量に発生した場所は、一種の異界なのではないかと思われるが、はっきりしたことはわからない。アイヌ語で鼠のことをエルムといい、岬のことをエンルムというらしいが、語形が似ているだけかもしれない。
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