山田の案山子、クエビコ

今でも日本の田畑では案山子(かかし)を見かけることがある。最近では古くなったマネキン人形などが案山子代わりに立ててあるのを見て驚くこともある。作物をねらう鳥たちもこれを見てさぞ驚くことだろうと思う。

この案山子が古事記にも登場する神々の一員であることは、古事記を読むまで気づかなかった。
古事記では、大国主神が美保の岬にいたとき、遠くから近づいてくる神があった。その神の名は誰も知らなかったが、谷蟆(たにぐく、"ひきがえる"の意)が言うには、クエビコなら知っているだろうという。そこでクエビコに聞いてみると、少彦名神だという。
このクエビコ(久延毘古)は、山田のソホドともいい、「足は行かねど、ことごとに天の下の事を知れる神なり」という。歩くことはできないが、あらゆる知恵の能力を備えた神だというわけである。

案山子は田の守り神でもある。古くはカガシと濁って発音し、カガシとは臭いのことで、動物の死骸を焼いたときの臭気で悪神を退散させるのだという。関東や信州などでは、10月10日に十日夜(とおかんや)という行事があるところがあり、案山子に大根などが供えられて祭られ、カカシアゲという。田の神としての役割が終って山に帰るときのお見送りの行事であるらしい。

クエビコを祀った神社もある。石川県中能登町の比古神社(くてひこじんじゃ、""の字は実際は"低"の旁部分)は、由緒も古く規模も大きい神社である。ほかには小さい祠だったものが鎮守様に合祀されて末社になったようなものが多い。
ソホドはソホヅともいう。

あしひきの山田に立てるそほづこそ、おのがたのみを人にかくなれ 古今六帖
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