新年の雪の歌

万葉集20巻の末尾、4516首目の大伴家持の歌。

 新しき年の初めの初春の、今日降る雪のいや頻(し)け。吉言(よごと)

元日の朝に雪が降り、その雪が頻りに積もるように、この年に吉事よ、多くあれ。
といった意味だろう。
正月の雪が、縁起の良いものと考えられていたことがわかる。
万葉集20巻を結ぶにあたって、未来への予祝をこめた歌でもあるのだろう。

続いて、古今集の最初の歌。
    
 年の内に 春は来にけり 一とせを 昨年(こぞ)とやいはん 今年とやいはん (在原元方)

年内に立春が来た。さてこの一年を振り返るのに、新しい春からみて「昨年」というべきか、まだ12月なので「今年」というべきか。

新暦しか知らないと、正月のことをなぜ「新春」というのですかという質問が出るわけだが、立春に近い朔日(月齢1)を、1月の最初とするのが旧暦なので、1月から3月を春と呼ぶ。立春は1月1日の前後の約30日間のどれかの日になる。12月中に立春が来る確率は約50%なので日常的にはよくあることになる。
「昨年」というべきか「今年」というべきかというのは、挨拶言葉をどう言ったら良いかということにもつながる。
古今集3番めの歌。

 春霞 たてるやいづこ みよしのゝ 吉野の山に 雪はふりつゝ {読人不知}

春が来たなら霞が立つはずだがいづこに見えるのか、吉野の山は雪が降っている。
この「いづこ」というのは否定的な意味ではなく、それならどこに春のきざしがあるか、探してみようという意味にもとれる。
そして6番めの歌。

 春たてば 花とや見らん 白雪の かゝれる枝に うぐひすのなく (素性法師)

雪を花に見立てれば良いではないか、というのも一つの挨拶の方法なのだろう。
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