「倚松帖」とは

「倚松帖」とは、我が家の幕末のころの当主が書き留めた、覚え書き帳の題名である。ブログのタイトルに拝借した。
覚え書きといっても、当座の小さい帳面ではなく、菊判サイズの厚めの良質の紙を二十葉ほど綴ぢて、丁寧に清書されたもので、手習ひの教本のような体裁になってゐる。
内容は、江戸時代の御触書などのうち家訓とすべき内容のものや、詩歌などが、書き写されてゐる。おそらく、家督を譲ったあとの晩年、明治初年ごろ書かれたものと思はれる。

その書の、詩歌の写しの冒頭は、『和漢朗詠集』の一節「子日付若菜」であった。

倚松樹以摩腰。習風霜之難犯也。
(松樹に倚り、以て腰を摩で、風霜の犯し難きを習ふ)
和菜羹而啜口。期気味之克調也。
(菜羹を和して口に啜り、気味の克く調はんことを期す 雲林院行幸 菅原道真)

子日(ねのひ)する野辺にこまつのなかりせばちよのためしになにをひかまし(壬生忠岑 拾遺集)
(以上、和漢朗詠集 子日付若菜より)

正月の子の日に、野辺に出て、若菜を摘み、小さい松を引くといふ子の日の遊
年の始めに、常磐樹である小松に触れて、長い年月に思ひを寄せ、長寿を祝ひ、そして七草粥をすする。
小松引きとは、野辺に自然に芽生へた小さい松を、引き抜いて持ち帰り、自宅に植ゑることであり、正月の門松をそのようにしつらへた地方もあったとのことである。
次代の繁栄を祈ってのものでもあらう。
英語で言へば、wish you ... となる。
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