月のしずく(若返りの水)

里芋の葉に降りた露をためておいて、葉で露を包んで七夕の日に神棚に供え、その水を肌につけると肌が若返り、疣につけると治るという話は、7/7のいちばん古い七夕の由来に書きました。
吉成直樹著『俗信のコスモロジー』(白水社)によると、沖縄では、里芋の露は、月から落ちてきたものらしいということです。
万葉集の月の水を歌った歌も紹介されています。

  天橋も長くもがも。高山も高くもがも。
  月読(つくよみ)の持てる変若水(をちみづ)、
  い取り来て、君に奉りて、変若(をち)得しむもの   万葉集3245
(意味)
  天の橋がもっと長かったら、高い山がもっと高かったら、(そこへ昇って)
  月の神のもとにあるという変若水を、
  すぐに取りに行って来て、君に差し上げ、若返ってほしいものを

同書によると、奄美沖縄の伝説では、水神(蛇)が月から降りてきて清泉に住み、また、水神は若水を浴びたので脱皮ができるようになったのだといいます。
7月7日の祭は、もとは水神祭であり、お正月のような若水汲みのようなものもあったらしいということです。七夕のころの行事には地域で行なう井戸さらいや井戸掃除もあり、江戸では「井戸替え」と言っていたようですが、井戸の傍らには水神が祭られていたわけです。

滋賀県の余呉湖の伝説は、信太妻に似たところもありますが、7月7日に水を浴びると天に帰った母と再会できるという水に関する話になっています。こういう天人女房の伝説(天の羽衣)は各地に多いのですが、もとは、水神と機を織る娘の聖婚を祝ふ祭である7月7日の水神祭が根本にあるようなのです。
で、この水神は月に住んでいたというわけです。

※補足 歌の口語訳は、現代的な悲哀の感じになってしまいましたが、「高くもがも」は高くあってほしいという意味で、実際はもう少し確信と信仰に満ちた内容の歌です。
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