『辞世千人一首』

wogifu.jpg『辞世千人一首』(荻生待也著・柏書房)という本は、日本の歴史上の人物の辞世の和歌、または辞世とされる和歌を千人(千首)集めたもので、専門の学者でない人が一人でよくそれだけ集めたと思う。

しかし若干の物足りなさが感じられるのは、参考文献が不十分だったからに違いない。一例を述べると、義経記に載る義経・弁慶の二人の歌が漏れている。

  六道の道のちまたに待てよ君、後れ先立つならひありとて  弁慶
  後の世もまた後の世もめぐりあへ、染む紫の雲の上まで   義経

他にも有名な歌が漏れているような気がする。歌語り風土記などはこの種の歌が多いと思うが、別の『歌語り日本史』もふくめ、インターネットを使えば良かったのにと思った次第。中世の説話文学や軍記物なども有用な資料になると思う。

しかしそのぶん無名に近い人の歌も少なからず収められているのは一つの味わいだろう。
江戸初期に武士のあいだで殉死の制度があったころの、島津藩で殉死した家臣の歌が数首。
明治の戊辰戦争のときの会津藩では、二百三十余名の婦女子が自刃したというが、同書にも載る次の二人の歌が特に心をうつものがある。「歌語り日本史」には載せたが、ネットの「歌語り風土記」にはない

  なよ竹の風にまかする身ながらも、たわまぬ節はありとこそ聞け 西郷千恵子
  もののふの猛き心にくらぶれば、数にも入らぬわが身ながらも  中島竹子

『辞世千人一首』には他の数人の女性の歌もある。白虎隊の少年たちの歌はないようだが、歌は年齢的な素養がないと詠めないのだと思う。
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