翁の知恵

数ヶ月前から「翁の知恵」ということを考えていた。
人間五十を過ぎれば「翁」であろう。
巷では「おばあちゃんの知恵」と称して、家事に関しての古くからの知恵が、意外に理にかなったものであり、人の心も豊かにするような、そんな伝承の価値が再認識されている。それに対しての翁の知恵のことである。
そういうのが高齢化社会の新しい文化になったら良いのではないかと思った。

『老人力』という十年以上前のベストセラーをもう一度開けばヒントになるかと思ったが、たまたまコンビニで売っていた『中央公論』の新年号の、山崎正和氏の言葉が面白かった。
簡単にまとめてみると、もともと江戸時代の文化は、大田蜀山人をはじめ中高年が文化の担い手であったという。若者はもっぱら肉体労働に従事し、文化の作り手は中年以上の旦那衆や御隠居衆だった。吉原も若者が行く場所ではなかった。
江戸時代以前は世界中がそうであり、明治以後の日本だけが若者文化中心になりすぎているらしい。芥川賞も青春文学ばかり。
日本の古典の教養よりも、西洋文化の聞きかじりが優位にまかり通ってしまった時代、教養が省みられず、単なる技術的な知識だけが蔓延してしまった時代、ということになる。

そんなことをヒントに考えて行けたら良いと思う。すぐに役に立ちそうに見えない教養というものは、しかし中高年になって初めてボディーブローのように効いていることがわかってくるものである。
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Comments

玄松子 | 2006/12/22 12:53
> 山崎正和氏の言葉が面白かった。

懐かしい名前を見ました。氏は僕の恩師です。
憶えられてはいないでしょうが。
元気にご活躍のようです。
森の番人 | 2006/12/22 17:29
山崎氏のことは4年前に話題に出ましたね。
源義家奥州征伐のとき衣川で安倍貞任と交わした有名な和歌について、和歌が言葉の壁を越える共通のたしなみないし教養としてあったという山崎氏の話を書いたときでした。
まだまだ御健在のようです。

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