本居宣長の恋

5月7日(旧暦)が本居宣長の誕生日である。歌語り風土記「松阪の一夜」を更新しておいた。

本居宣長といえば硬派の男子学生が読むものだと思われがちかもしれないが、そういうものでもないだろう。丸谷才一著『恋と女の日本文学』から見える宣長像は、今の若い人にも親しまれやすいと思う。

丸谷氏はその本の中で、宣長の離縁の謎について史料によって明らかにしている。
同書に書かれていたことを記憶を頼りに述べれば、宣長には20代のはじめに恋心を抱いていた女性があり、それは友人の妹であった。京都で医学を学んでいたころ、里帰りのときには途中でかなり遠回りをしてまで友人宅を訪れていたのは、彼女の姿を見たいがためだったという。松阪の実家に戻って、なんとか一人前になったころ、彼女は既に人妻となっていた。宣長はやむなく周囲にすすめられるままに別の女性と最初の結婚をした。実直で何の不足もない妻だったという。しかし幾年もしないうちに、友人の妹が夫に先立たれて里に帰っていることを知った宣長には、たちまち若き日の恋心がよみがえってしまった。そして離縁、再婚へと進むのである。

たしかに「あはれ」な話だと思う。哀しみとは何か、喜びとは何か。このことから「もののあはれ」とは何かということが宣長のテーマになったのだというようなことが書かれている。好色文学としか思われていなかった『源氏物語』に、日本を代表する古典文学の評価を与えたのも宣長だった。
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Comments

橘 正史 | 2006/06/10 00:44
 本居宣長の恋の話、何かで読んだことがあります。道徳的な批判をする立場もあるかもしれませんが、私は、肯定的に捉えています。

 もののあはれ、とは、宣長にとって過去の話でも頭の中だけの話でもなく、最も切実な、自らの生き方の問題だったのですね。

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